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大阪高等裁判所 昭和44年(う)870号 判決 1970年1月28日

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人辛島宏作成名義の控訴趣意書及び控訴趣意補充書記載のとおりであるから、これを引用する。

控訴趣意第二点について

所論は原判決の法令解釈の誤を主張し、原判決は原判示第三の事実において、ダンプカー一台を刑法二〇八条の二にいう兇器と解したが、これは兇器の概念を不当に拡張し、兇器でないものに及ぼした違法がある、というのである。

よつて按ずるに、刑法二〇八条の二にいう「兇器を準備し」とは、同条の制定の趣旨が、集団的殺傷事犯を未然に防止するにあり、銃砲刀剣等の取締のみでは達成し難い面をも規制の対象とするにあることから考え、単にいわゆる性質上の兇器、すなわち、銃砲刀剣のごときものを準備した場合のみならず、いわゆる用法上の兇器、すなわち、棍棒、鉄棒のごとき、本来は人を殺傷するための器具ではないが、闘争に用いれば人を殺傷するに足る器具を、そのような用法で使用すべく準備している場合をも含むものと解するのが相当である。ところで原判決が本件ダンプカーを兇器と解したことは所論のとおりであるが、原判決挙示の対応証拠によれば本件ダンプカーは大型貨物自動車の部類に属し、その大きさ、形状、馬力に照らし、之を走行させて目的物に衝突せしめれば、人を殺傷し、或は普通乗用車等を破壊するに十分な能力を備えていることが明らかであるところ、被告人らは、多数の相沢組組員が乗用車に乗つて南方道路上から久保組事務所に殺到すべきことを予測し、そのときは本件ダンプカーを発進させて之に衝突させ、同組員を殺傷すべく計画し、ダンプカーを久保組事務所前道路の北寄に南を向けておき、組員二名を乗車させ、エンジンをかけたまま待機していたことが認められるので、このような状況でダンプカーを準備したことは、これを刑法二〇八条の二にいう兇器を準備しに当ると解することが相当であつて、これと同旨の解釈に出た原判決の法令解釈には何らの誤はない。論旨は理由がない。

控訴趣意第一点および補充控訴趣意について

所論は原判決の量刑不当を主張するので、記録を精査するに、本件は、被告人が、いわゆるやくざの団体、大日本平和会系二代目久保組会計であつたところ、久保組さん下の球友会の会員山城繁らが、同組と反目関係にあつた神戸山口組系相沢組の準組員山本和夫に傷害を負わせ、さらに球友会事務所にきた相沢組組員に猟銃を発射し、田中歳和に重傷を負わせたため、久保組、相沢組間の関係が険悪化し、相沢組員が報復として、球友会会員のみならず久保組副組長藤原亀三郎方に対しても、なぐり込みをかけてくることが予想されたので、その際には久保組員と共にこれを迎え撃ち相沢組組員の生命身体に共同して害を加える目的で、右藤原ら一〇数名の久保組組員と共に右藤原方に、約三時間に亘り、けん銃日本刀等の兇器を準備して集合し、さらに情勢の進展に即応して右同様の目的で、右藤原らと共に、同組員赤嶺盛方、および久保組事務所に右同様兇器の準備あることを知つて集合したほか、舎弟高橋徳正と共謀の上、けん銃一丁、けん銃用実包四発を不法に所持した事案であつて、被告人は久保組の準幹部たる会計として本件犯行に参加し、久保組に兇器の準備が少いと見るや卒先して和歌山の岡崎組に兇器の借受けに赴き、けん銃一丁、けん銃用実包四発、軍刀一本を借りうけて帰り、かつその際同組に預けてあつた若衆高橋徳正を招致して久保組につれ帰り、もつて久保組に一戦力を加える等積極的に活動したこと、組関係の経歴、平素の生活態度、ならびに前科を一五犯かさねていること、ことに被告人は、昭和三七年七月二一日和歌山地方裁判所において、暴力行為等処罰に関する法律違反等により懲役一〇月に処せられ、同三八年三月二四日右刑の執行をうけ終り、同年七月四日大阪地方裁判所において、傷害罪により懲役一年に処せられ、同三九年八月一日右刑の執行をうけ終り、本件と累犯関係にある二犯を有すること等諸般の事情を考慮すると、所論指摘の事情を充分しんしやくしても、被告人を懲役一〇月(未決勾留日数二五日算入)に処した原判決の量刑は重過ぎるとは考えられない。論旨は理由がない。

よつて、刑事訴訟法三九六条により本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

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